2015/04/27
梅干しを漬ける人々〜上田淑子さんの場合〜
今回は、茶道の師範をされている上田淑子(うえだよしこ)さんにお話を伺いました。
東京都区内のご自宅でお茶のお稽古を行い、たくさんのお弟子さんに慕われています。着物を着こなし、洗練された所作と上品で温かな口調で、日本の美を体現しながらも、新しい事柄に対する好奇心は人一倍。若々しい姿に、年齢を伺って驚いてしまいました。
「私の作る梅はしょっぱいとか酸っぱいとかって家族には不評なんです(笑)
孫たちは和歌山から取り寄せた減塩で甘い南高梅を食べているの。でもおにぎりにはこういうしょっぱい梅干しじゃないとね。
現在81歳です。梅干しは結婚した頃から作っているので、もう50年以上は経つでしょうか。
庭に梅の木が2本あるんです。梅の実ができるからもったいないし、身体にもいいので作り始めました。
私が結婚してここに来た頃には、お姑さんは、もう梅干しを漬けていなかったので、自分で本を見て始めたんです。
梅の木の品種は1本は白加賀(しらかが)、もう1本は豊後梅(ぶんごうめ)。
木は80年以上経っているんです。木の皮がはがれて、アリが巣食ってますが、子孫を残そうとしているんでしょうね、花もたくさん咲くし、実もたくさんつきます。
ある時期からすごく実がなるようになったんです。何が良かったのかしら。
理由を色々考えるけれど、よくわからないです。枝は年に1回、植木屋さんが切ってくれています。
白加賀のほうが実が大きくて、豊後梅は小さめで種が大きいのよね。
姉のところにある梅の木は、ある時期から実がならなくなったって言ってましたね。
でも、ならなくて、せいせいしてるって(笑)
実がなったら忙しいのよ。その時期にやってしまわないとですからね。
6月の収穫時期は、梅の実が落ちたのは毎日ちょこちょこ拾って、洗って冷蔵庫にためておくの。冷蔵庫に入れておくと結構持つのよね。
それから、実が熟す頃合いになったら、主人が号令かけてね、孫も友達を呼んできて、収穫です。みんなで木の下でブルーシートを持って、梅の木をゆすったり、叩いたりして落とすのよ。
木に上ったり、上のほうは高枝切りバサミで切ったり、一気に収穫します。
庭に石があって、地面に直接落とすと実が割れちゃうから、シートは持ったままよ。
手伝ってくれたお子さんのお母さんたちには梅をおみやげに差し上げています。
梅の実は10キロ以上は採れますよ。
収穫したら忙しいんですよ。どんどんいたみますから、すぐに作らないと。
梅が欲しいって言ってくださる方も多いのですが、すぐ来てもらわないといたんじゃうんです。
作っているのは梅干し、シロップ、ジャム、ゆかりです。
梅酒は最近は作っていませんね。
落ちた梅やキズがあるものはジャム用。
ジャムの砂糖の量はいい加減です。味見しながらね。
砂糖は結構入れるのだけど、結構酸っぱいのよ。
熟した梅はそのまま、青梅はアクがあるから煮こぼしてから作っています。
できあがったら、小さな瓶に小分けして、冷凍しておくんです。
日持ちもするし、香りも残りますよ。
シロップは梅と砂糖が同量。白砂糖を使っています。
梅をホワイトリカーで消毒してから仕込めば、発酵したり、カビたりしないってわかって、今はそうしています。
子供は発酵した匂いを嫌いますね。アルコールっぽい感じがするでしょうね。
エキスが出た後は、梅を取り出して、冷蔵庫に入れているけど、冷蔵保存は必要ないかしらね。
作っている時にカビなければ大丈夫かなとも思っているけれどどうなのかしら。
シロップは特に煮立てたりもせず、そのまま保存です。
取り出した梅の実もジャムにしますけど、やっぱり生の梅から作ったジャムのほうが香りがいいし、おいしいわよね。エキスが出ちゃっているから。
昔、母から、シロップに仕込む梅は竹串で穴をいくつも開けるとエキスが出やすいって聞いたけれど、穴は開けなくても大丈夫みたい。
梅干しはきれいな梅で漬けたいので、梅は選り分けます。
シロップは多少キズがあってもいいと思います。シロップ用は洗ってから袋に入れて冷凍しておいて、時間がある時に仕込みます。冷凍しておくと、エキスも出やすいようです。
梅干し作りは、梅が黄色くなるまで家の中に置いて、それから洗って、ヘタを取って、一晩水に漬けて。水に漬けておくと色が変わるでしょう。
そうしたらホワイトリカーで拭いて消毒してから、塩漬けにします。
塩はスーパーで、海水から作ったものを選んでいます。塩の量は梅の重量の20%です。それ以下だとカビるんです。こんなにたくさん塩を入れて大丈夫かしらといつも思うけれど、少ないとカビるし、おにぎりとかはしっかり塩を効かせた梅干しじゃないとおいしくないと思っています。
梅干しを漬ける入れ物は、プラスチックの漬け物容器を使っています。
重石はホームセンターで売っているような漬け物用の重石。梅と塩を容器に入れて、陶器の落としぶたを逆さにして、上が平らになるようにして、重石を乗せています。
そのほうが均一に押されるかなと思って。
最初は上に重石が飛び出ている状態で、蓋も閉まらないので、ビニール袋で覆っておきます。そのうちに何日かすると梅から梅酢が上がってくると、重石も少しずつ下がってくるから蓋ができるようになるんです。置き場所は台所です。
昔、2度ほどカビが生えたことがあるんです。
1回目はずっと気付かなかったので、ずいぶんたくさん生えていて、気持ち悪くて捨てちゃった。2回目は少しだけで、カビの部分だけ取ったら他はきれいだったから、そのまま作り続けて、大丈夫でした。
カビが生えたのは、塩分を減らしてみようと思って15%くらいで作った時だったんです。
世の中に減塩や甘い梅干しが出回っているからやってみようと思ったのだけれど、もうやめました。甘い梅干しは和歌山県に任せます(笑)
梅を塩漬けして、1週間くらいしてから、シソを買ってきて塩揉みして、梅の上に乗せるようにして入れて、干す時期までそのまま置いておきます。
梅雨明けした頃に3日間くらい干します。この時に梅酢も日に当てます。
昔は、1日干して、夜は梅酢に戻してから翌日また干して、というのを3日間繰り返していて、おいしかったんですね。
でも、今は量も増えて、ひっくり返すのも大変なくらいだから、昼間干したら、夕方はざるに乗せたまま、家の中に入れて、また翌日出すことにしています。
去年は乾かしすぎたかなと思っているんですよ。ちょっとしわがより過ぎた感じがしない?
干し上がりの加減が難しいのよね。干した後は、梅酢と分けて保管します。梅干しはできあがると楽しいし、嬉しいわね。
そうそう、去年はやらなかったけれど、干し上がった最後に、ざっとざらめを入れることもあります。とろっとした感じになっておいしいのよ。
シソは少しだけ梅と一緒に入れておくけれど、ほとんどは干して、ゆかりにしています。
息子や孫たちも好きで、お弁当に入れたりしているみたい。ごまと混ぜてふりかけにしたりね。
カラッカラになるまで干して、包丁で切るの。
すりばちとかフードプロセッサーとか、色々試したけれど、あんまり細かくなるのもおいしくない気がして。ゆかりってお店で見ると安いでしょ。あんなに安くできるはずないのにって思うのよね。シソって結構高いし、大量のシソが少しになっちゃうでしょ。
梅干しは好きです。
昔はいくつも食べていたけれど、この年になると塩分が気になるから、おにぎりにする時も、3〜4切れにちぎって入れているの。
あとはお料理に使いますね。減塩醤油に梅干しを入れておくと、普通のお醤油くらいの塩分になるの。梅醤油ね。これで鯛など白身のお刺身を食べるとおいしいですよ。かけ醤油にしてもいいし。
かけ酢を作る時にも使います。2倍酢みたいなものを作る時に梅干しを入れるの。普通の酢を使うより香りもいいし、まろやかに仕上がるのよ。
イワシなど魚を煮る時にも梅干しを入れますね。煮魚に入れるにはこういうしょっぱい梅干しじゃないとダメね。
主人のお母さんが北陸出身だったので教わったのですが、イワシを醤油やみりん、梅干しと酢も加えて煮るという料理もします。さっぱりしていておいしいです。
梅干しもジャムも人に差し上げています。
そうすると、お替わりも来るから結構すぐになくなるんですよ。
酸っぱいのが好きな方には喜ばれますね。やっぱり梅干しは酸っぱくないとね」
淑子さんの義理の娘さんである上田晶美さんとはとても仲良しで、
実の親子と間違われることも多いとか。
晶美さんは梅干しはしょっぱくって、と笑いながらも、
梅の木やお庭はとても大事にされています。
「梅の収穫は家の年中行事としてすごく大事なんです。
お父さんが号令かけて、みんなで行うというのがとてもいいと思っています。
子供たちもそろそろ梅の収穫だね、なんて話したりしていますよ。お義母さんの梅シロップは子供たちが小さい時もよく飲んでました。暑い時期においしいですよね」
お庭は手入れが行き届き、東京都区内とは思えないほど、様々な鳥たちがやってきます。
お話を伺った3月には、メジロやヒヨ、シジュウカラなどが訪れ、時折さえずり声が響いていました。
キャリアコンサルタントである上田晶美さんのブログには、上田家のお庭も時折登場しています。
下の写真は3月上旬の上田家のお庭。かわいらしい梅の花が満開です。
(2015年3月取材)